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序章 お嬢から賜った名
冬の朝、日が昇り始めるこのくらいの時間帯はめちゃくちゃ寒い。吐いた息が真っ白で、オレは思わず隣を走るお嬢を見上げた。
お嬢と早起きして近所を一回りするのは日課だが、お嬢が風邪を引かないか心配になっちまう。
「お嬢、寒くねぇ?大丈夫か?」
軽快に進むお嬢は、マフラーや手袋をして防寒対策は万全だが、鼻の頭が真っ赤になっててなんだか寒そうだ。
「うん、大丈夫だよ」
そう言ってにっこりと微笑むお嬢の顔に、腹の奥がキュンっと音を立てた。この笑顔が、今だけはオレだけに向けられたものだと思うと身悶えしたくなる。お嬢と二人っきりのこの時間が、一日の元気の素だ。
なのに…
「あら!珍しいわ!シェパードちゃんね~!」
向かいから歩いてきたオバサンがオレを見て言ってきた。
チッ。なんだよイイ気分だったのに。
「オレはシェパードなんて変な名前じゃねぇよ!お嬢から賜った名前があるんだから間違えんなよな!」
グルルとちょっと威嚇しただけなのに
「ちょっとウィル!ダメ!吠えちゃ!!」
お嬢にグイッとリードを引かれ、うぇっとなった。
茶々入れてきたオバサンが悪いのに、お嬢に怒られちまったじゃねぇか。当の本人はそそくさとどっか行っちまってるし。気分ダダ下がりだっつぅの。
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