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「宮ちゃん?丸男って宮ちゃんの事?」
チヒロさんがケーキを差し出してくれながら首を傾げる。
昨夜のお客からの差し入れらしい。
真っ昼間の私のアパートで、仕事をサボって帰宅する途中、ママチャリでスッ転んだ話の中に出て来た丸男に偶然出会した事を話した。
丸男の名前が"宮崎 弘"だと言う事を知ると、チヒロさんは彼を"宮ちゃん"と呼んだ。
「知ってるの?」
「ええ、宮ちゃんは表の商店街の中にある本屋さんよ。
商工会の青年団員だし、よく火の用心回りで挨拶に来てくれるわよ」
開店中や、閉店間際に火の始末を促す声掛けに週一ほどの割合で訪れてくるそうだ。
「へぇー……」
私は気のない声を出してイチゴのパイにかぶりついた。
行儀が悪いとチヒロさんが苦笑する。
店に来てくれと言ってから3日、ヒロシは未だ来店してくれはしない。
この2日、真面目に働いて待っているのに現れないから、ついチヒロさんの前で愚痴を溢した。
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