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「パパおみくじ買って」
小2のカナが、ミトンをはめた両手で、私の袖口を引っ張った。ピンク色のコートから見せるおさな顔に見つめられると、つい甘くしそうになる自分が情けない。
「分かった、分かった。ちょっと待ってなさい。今並んでいるからね。もうすぐだから」
でも私が並んでいたのは、おみくじの列ではなく、破魔矢と御札を買うための列だった。あいにく妻の小雪は、たこ焼きを買うために他の列に並んでいる。
「今は無理だからさ、パパが終わるまで、待っていようよ。今離れると、迷子になるよ」ケンが言った。
さすがケンは、私の言わんとしている事を良く分かってくれている。
三が日だけあって、人の量が普通じゃない。こんな時にはぐれでもしたら、迷子になる事は確実だ。
「パパ、あたしお年玉があるから、それで買ってくる」
「カナ、だめだ。せめてママが来てからにしなさい」
売店までの順番はもうすぐだった。随分と長い列を並んだだけあって、今更また最後尾に並ぶのは、どうしても避けたかった。
しかし、こういう時のカナは聞き分けが無い。自分の思う通りにしないと気が済まないのだ。
そして案の定、カナは走って人混みの中に消えてしまった。
「こら! カナ駄目だって!」
「パパ、カナはお年玉持ってないよ」
「えっ? そんなはずは……今日お婆ちゃんがくれたやつがあったろう」
「カナは失くすから預かるって、ママに取られてたよ」
それは正解だ。さすが母親だけあって、小雪はカナの性格を良く把握している。
「僕が連れ戻してくるよ。きっとカナは忘れてるんだ。僕ならお年玉も持っているし、カナもくじを引きさえすれば納得するはずだから」
「そうか頼む。パパはここを動かないで待っているからな」
ケンは片手を挙げると、カナを追いかけて人混みに消えた。
ケンはしっかりしている。あいつにはお年玉を持たせても、無駄遣いは絶対にしないだろう。
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