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1.生死不明 Life and Death Unnown
高校2年生の夏も終わりを迎え、新たな季節が訪れてようとしていたーー。
町並みはすっかり秋色へと移ろぎ、街路樹はすっかり寂しげな色へと変わっていた。
少し肌寒い風を感じながら、藤野有栖(ふじのありす)は学校の部活動が終わるといつもの帰宅路から逸れ、町内でも中心地に位置する愛国病院へと向かっていた。
「有栖先輩!!さよならぁーっ!!」
帰宅ラッシュの渋滞道路を挟んで、大きな声が耳に入った。声のした方向を見ると、こちらへ大きく手を振る後輩達の姿が目に入った。
「寄り道しないで帰りなさいー!!」
つい先程まで道場でへばっていたはずの彼女らも、帰りとなると嘘のように元気だ。
県大会では常勝、全国大会連覇の名門でもある剣道部に所属する有栖は、中学から始めたにも関わらず特待生として現在の高校へと入学した。
県大会では優勝する程の腕前、二年生にしてすでに部内の指導係を務める程になっていた。
そんな剣道に没頭する充実した日々を過ごす有栖に、ある日暗い影を落とした。
小学生の頃からの幼馴染が病に倒れたのだ。
今日はそのお見舞いだった。
有栖は一年生達に手を振ると、走り去る自転車の一行から空へと目を移した。
今日はいつもより早めに切り上げる予定だったが、空はすっかりと夕焼けに染まっている。
東の空は少しずつ黒く染まり、夜が訪れるのもすっかり早くなったと実感した。
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