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お年玉という風習がいつから始まったのか、僕らは知らない。知らなくてももらえるから、知る必要もないけど。最初に始めた気のいい大人に感謝しなければ。ただこの生体チップを考え出したかつてのお偉いさんたちは別だ。こっちに関しては学校で散々勉強させられて、知りたくもないことを頭に叩き込まれた。
物心ついた頃には右手の甲に埋め込まれているチップ。国から与えられたナンバーが振り当てられ、常に健康状況と資産情報を記録する。死ぬまでの長い付き合い。何かを購入するにはこのチップをデバイスにかざさなければならない。酒、タバコは20歳にならなきゃ買えない。昔からそうらしいけど。どんなに老け顔でも年齢認証で弾かれる。僕らが1年の頃、2個上の先輩がタバコを買ったせいで退学になった。中学校なのに。今は他県のなんちゃら学園に通ってると風の噂で聞いた。
締め付けられた状況から抜け道を探したくなるのは当たり前だ。去年の秋にはこんなことがあった。クラスのトークルームであるアプリが話題になった。アプリをダウンロードして個人情報を登録すると、年齢の設定が10歳上になり、国の年齢認証システムをごまかせるという。もちろんこんな都合の良い話なんてなく、騙された女子たちの何人かが職員室に呼び出された。年齢が増えるなんてこともなく、ただ個人情報を悪用されただけ。「まだあなたたちは若いんだから、わざわざ年をとる必要なんてないのよ」と校長が全校生徒の前で言ったが、みんなババアの嫉妬だと悪態をついていた。僕らは早く大人になりたかったし、大人になるっていうことに過剰な憧れがあった。大人はわかった風に言うけれど(まあ実際わかってるんだけど)、僕らには今が一番重要で、昔話なんて何の役にも立ちゃしない。
「ここのジジイは映画好きなんだ」
錆びて所々穴の空いた看板が掲げてある店の前で、ダイゴが言った。中古の電化製品を売っているお店。店の外には日に焼けたガチャポンの機械。アクリルが磨りガラスみたいに風化して中に景品が入っているのかも確認できない。誰が買うのだろう。中を覗くと暗くて何も見えなかったが、カビとオイルの匂いが漂ってくる。
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