あ、じゃあ。お年玉で。

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眠りから覚めるとどことも知らない薄暗い場所に僕はいた。椅子に座らされて、縄で体を固定されている。口は開けた状態でハンカチを用いて結ばれていた。 そして後ろから顔を隠し、右手に包丁を握った男が現れる。 「お目覚めかい、坊ちゃん。」 「ヴぐぅぅぅー!んんっーー!!」 上手く言葉を発せない僕を見下ろしながら男はニヤける。 「口は解いてやろう。これからおまえには働いてもらわなければならないからなあ。」 楽しそうにそう言うと男は僕の口を解放する。 「大人しく俺に従え。おまえの父ちゃんがキチンとお金を払ってくれたら解放してやるよ。 ククク……有名会社の社長は小学2年の息子のためにいくら金を出すだろうなあ? 考えただけでにやけが止まらん。」 「……おじさんは、お金が欲しいの?」 僕が聞くとおじさんは笑う。 「ああ、金が欲しいんだ。そのためなら誘拐だろうが、ガキ1匹殺そうが、なんだってするんだよ!」 おじさんは大声で言うと今度は声をあげて笑った。おじさんの笑い声が暗く薄汚い空間に反響した。 「ふーん?」 「……なんだ、ガキ。何かいいたそうだな。」 「お金が欲しいなら僕のお金あげるよ! 僕お年玉もらったんだ。」 「……は?」 おじさんはキョトンとした。 僕はその顔を見てーーーニヤりと笑って椅子から立ち上がった。 「!? おまえ、縄が……!!」 動揺しているおじさんもとい誘拐犯の問いかけを待たずに僕は包丁が握られた右手を蹴り飛ばす。 誘拐犯の手から包丁が離れる。 「大人を舐めるなよ、クソガキがあ!!」 誘拐犯は拳を振り上げて、僕をめがけて勢いよく振り下ろす。しかし、僕からしたらそれは恐るるに至らないスローパンチだ。 ワザとギリギリのところでかわし、誘拐犯の懐へ入るとみぞおちに肘打ちを1発。さらに体を丸めた隙に顎に回し蹴りをお見舞いする。 誘拐犯は声もなくその場に倒れた。 「ったく、時期社長でIQ160の天才少年に汚い空気吸わせやがって。ここ1週間つけられていたことに気づいていたことも、ワザと誘拐されてやったことも知らずに哀れな奴だ。」 僕は倒れたままの誘拐犯に言葉を投げかける。恐らくもう意識はなく、その言葉は届いていないだろうが。 僕は哀れみの意味を込めて、今年のお年玉の総額の10分の1である福沢諭吉1束を地面に投げて帰路についた。
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