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「美味しかった」
アンナは自室に戻っていく。ヒースもその後をついてきた。
「アンナ様」
「ヒース。貴方も美味しかった? そもそも犬って何を食べるのかしら? スコーンやクッキーは好きなの?」
アンナは不思議そうに尋ねた。
「私は美味しいものならなんでも好きです。スコーンもクッキーも美味しかったです」
満足気なヒースにアンナは少し微笑んだ。
「なら良かったわね」
そしてまた手鏡で自分を見る。
「アンナ、やっぱり貴女は美しいわ。それに比べてヒースはなんでこんなに不細工に生まれたのかしら。あまりに不細工すぎて、同情してしまうわ」
ヒースは不細工な顔をさらにしかめて複雑な気持ちになった。
「今日は久しぶりに散歩をして、ヒースに会って、と色々あったわ。たまにはこんな日もいいかもしれないわ」
手鏡に微笑みながらアンナは言った。
「ヒースも疲れたんじゃない? そうね、寝るときにはこれを使うといいわ」
アンナはフカフカのクッションをヒースの前においた。あわいピンク色でレースのリボンがついていた。
「このクッションを私が使ってもいいのですか? 勿体ない気もしますが……」
「遠慮することないわ。使いなさいな」
「ありがとうございます」
ヒースは恐る恐るクッションに乗る。身体に合わせて凹む柔らかなクッションにヒースは満足して鼻を鳴らした。
アンナが時計を見て、
「もうすぐで日も沈むわね」
と言ったところでヒースはクビをもたげた。
「アンナ様、夕日が沈むのを見ましょう!」
「あら、なんで? 見ても見なくても夕日は沈むわ」
「いいから、見ましょう! アンナ様のお部屋のテラスからなら綺麗に見えるはずです」
アンナは渋々ガウンを羽織ると、テラスに出た。ヒースもそれに続く。
アンナは空を仰いで、
「空が燃えているみたいだわ」
と目を瞬かせた。
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