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次の日。ヒースは日の出の前に起きて、アンナに話しかけた。
「アンナ様! アンナ様!
もうすぐ日の出です。起きてください!」
アンナは大きなヒースの声に何事かと目をうっすら開けた。辺りはまだ暗い。
「ううーん。ヒース。まだ朝じゃないわ。うるさい犬ね」
「もうすぐ日の出なんです! 一緒に見ると言ったではありませんか!」
負けじとヒースは言い返す。アンナは大きなあくびをして、上半身を起こした。
「眠いわ、ヒース」
手鏡を手探りで手に取り、自分を映すが暗くてよくわからない。
「ヒース。私がどんな顔をしてるかも分からないくらい暗いのよ?」
「大丈夫。私には寝ぼけ眼でも誰よりも美しい貴女が見えています」
ヒースの言葉にアンナはやや気分を良くした。明かりをつけ、自分の顔を鏡に映す。なるほど確かに寝ぼけ眼だが、それすら愛らしい自分が映っていることにアンナは満足した。
「まだ寒いので暖かい格好をしてください」
いつもならメイドが持ってくるはずの引っ掛ける服をアンナは仕方なくクローゼットを開いて探す。
ウールのコートを見つけ、それを着込んだ。
「アンナ様!早く早く! 日が出てきました!」
ヒースの声にアンナは慌ててテラスへ出る。
東側は山がある。山の縁が白み始めて、明るい橙より薄い光が空中に散らばっていく。エネルギッシュな光が東から世界中にリレーをしているようだ。暗かった辺りがあっという間に明るくなっていく。
「元気ね、朝日は。なんだかワクワクする感じね」
「本当にそうですね。初めて日の出を見てどうでしたか」
「前向きな光をくれる美しさだったわ。私はなんで今まで見なかったのかしら」
アンナは可愛らしく首を傾げた。
「もしかして、私は色んなものを見過ごしてきたのかしら?」
「まあ、そうかもしれませんね。でも大丈夫です。これから見ていけばいいのですから」
そう言って胸を張ったヒースをアンナは少しだけ心強く感じた。
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