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「アンナや。たまには共をつけて外に散歩にでも行ってはどうかな?」 「近衛隊長のバルザックなどいれば安心でしょう」  バルザックは城の中でも有名な美丈夫である。忠誠心厚く、仕事に命をかけてきたため、まだ結婚していない。年は29歳。アンナの年が18歳なので、年の差はあるが、バルザックにならアンナをやってもいいと王も王妃も思っていた。 「散歩?」  アンナは気乗りしない声で返事をする。 「そうだよ。城にばかりこもっていたら気も滅入るだろう」 「あら、私は鏡さえあれば幸せよ? こんなに美しい私が常に見られれば私は満足だわ」  王と王妃はまたも顔を見合わせる。この作戦は失敗のようだ。 「でも、太陽の光を浴びて輝く私を見るのも悪くはないわね。散歩に行ってみるわ」  食事を終えたアンナは手鏡をまた手にすると、席を立った。 「バルザック! アンナを頼む」  呼ばれたバルザックは、 「はっ!」  と返事をしてすると、アンナの手をそっととってエスコートした。アンナはちらりとバルザックの顔を見て、 「あなたがバルザック?」  と声をかけた。声をかけられたバルザックは頬をほんのりと赤く染めている。王と王妃は期待に胸を膨らませながらその様子を後ろから見ている。 「は!」 「暑苦しい返事はしなくていいわ。私の身を守ってね」  バルザックは困惑気味に頷く。アンナがバルザックに視線を向けたのはその時だけで、その後は始終手鏡に映る自分を見ていた。
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