2

1/9
55人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ

2

 アンナが目を覚ますとヒースが部屋の床に丸くなっていた。  アンナが体を起こす気配が分かったのか、ヒースは立ち上がり、彼女の方を向いてしっぽを振った。こうして見ているとただの不細工な犬だ。とても喋るとは思えない。  アンナは寝る前のことが夢なのか現実なのか分からなくなる。  そこへヒースが、 「アンナ様、おはようございます。ちょうどお茶の時間になりますが、お腹はすきましたか?」  と声をかけ、アンナは一気に目が覚めた。  手鏡を手に取り、覗くいて、寝癖がついた髪を整える。 「アンナ、やっぱりいつ見ても綺麗よ」  アンナは自分にうっとりと声をかける。  そして、ヒースのほうを向いた。 「お昼を食べなかったからお腹はすいてるわ。一緒にお茶にしましょう」  アンナが部屋を出て階段を下りると、ヒースもその後ろからついてきた。  テーブルには王と王妃がついていた。 「アンナ、お腹がすいたでしょう。今日はスコーンとクッキーがあるわ。紅茶が冷めないうちにお食べ」  王妃の言葉に頷くと、アンナは席についてスコーンを手にとった。ブルーベリーのジャムをたっぷりつける。 「あら、そうだわ。ヒースの分がないわね」 「私はアンナ様から少し頂ければ十分です」  ヒースの言葉に、アンナはスコーンを割って、ヒースの口元に置いた。  王と王妃はそんなアンナを見て驚いていた。アンナが自分以外のために気遣うなんて。  ヒースが口にブルーベリージャムをつけてるのを見て、アンナは笑う。 「不細工がさらに不細工よ。まるで紫の口紅をつけているみたい」  そして、笑いながらもアンナはナプキンでヒースの口元を拭いてやった。王と王妃はさらに驚いて顔を見合わせる。 「クッキーは上手にお食べよ」  アンナのくれたチョコチップクッキーをヒースは喜んで食べた。アンナはそれを見て満足し、ヒースを撫でた。そして手鏡を見る。 「犬を可愛がるアンナも素敵よ」  王と王妃はその言葉に少しがっかりしたが、アンナが嘘でヒースを可愛がっているようには見えず、希望を持ったのであった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!