もしも、1時間が当たったら

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(3) あれから何年も経った。 本当は隆くんの大学に行きたかったが、私の頭では到底及ばず……自分の身の丈に合った大学に入り、自分の身の丈に合った職と巡り合い、この春ついに社会人になる。 隆くんの家族とは、特に連絡を取ることもなかったから、私たちはもう赤の他人同然だった。 顔を合わせなくなったら人間薄情なもんで、あんなに毎日思っていたのに、今じゃたまにしか思い出さなくなった。いや……逆に言えば、『たまに』だったら思い出してしまう。 ふと淋しくなったときに。 慰めてほしいときに。 私の心の中にはまだ隆くんがいた。
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