抱きしめられるこの今を

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 氷見野の迫力は誰が止めようと必ず救出に向かうと言っていた。  平行線を辿ろうとする中、サモンの嘆息(たんそく)が裂いた。 「分かったよ」  サモンに一同の視線が向く。 「連れていく」 「サモン!!」  オルビアは反論しようとしたが、サモンが手で制しながら続ける。 「ただし、条件がある」 「なんですか?」  サモンは自分の右足を軽く叩く。すると、サモンの右足太ももの外側の一部がスライドする。筒状の物が現れ、サモンはそれを引き抜く。 「これを飲め」  サモンは氷見野に近づき、筒状のボトルを差し出す。 「うちの特製ドリンクだ。あんたのドリンク、もうカラだろ」  氷見野の左腰後ろにあるタンブラー入れは衝撃保護のためのカバーが取れ、タンブラーが露出していた。タンブラーに穴が空いており、砂が入っていても不思議ではない。 「ありがとう」  氷見野はスクイズボトルを受け取り、キャップを開ける。  シールドモニターを開けると、据えた臭いが鼻の奥をついた。  中身が見えないのでどんな味がするか分からず、一瞬ためらった。容器を握り、中身を押し出す。口に構えた飲み口から茶色の水が出てくる。舌はぬるい水の感触を伝えた。少しの酸味とアルコールの匂いがした。  氷見野は眉をひそめて口を閉じ、むせる。苦々しい顔をする氷見野を見たサモンは笑みをこぼした。 「さ、行こうか。総仕上げだ」  氷見野は指で口元を拭い、凛々しい顔で頷いた。
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