平和は唐突に崩壊する

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 日本の街の雰囲気や風景が刻々と変わっていく様を目の当たりにしていると、心は自然とざわついてしまい、もしかしたらが脳裏によぎるのだ。  経済面でも少なからずダメージを負い、世界規模の経済低迷が叫ばれた。が、工夫を凝らした経済活動が行われたこともあり、市民の生活は回復してきている。  氷見野の家庭にもそれなりに影響はあったが、夫の稼ぎは充分過ぎるほどあり、生活が苦しいと思うほどの深刻さはない。  正直、この生物の話は聞き飽きていた。  なんでこんなことに悩まされなきゃいけないんだろう。そういう声は少なくない。今や地震や台風などと一緒にブリーチャー接近の速報が入るくらい、日常に浸透している。起こってしまった以上、人々は対応せざるを得ないのだ。  時間が経てば思考はすぐに日常へ向いていく。  外から蝉の鳴き声が聞こえてくる。変わらない鳴き声だ。聞き慣れた声はざわつく胸の奥を鎮めてくれる。安全と危険が混在している世界になってしまった。元々そういう世界ではあったが、それが戦争とは無縁の国民にまで及んでいる。  早く普通に暮らしたい。  たちに頑張ってもらって、ブリーチャーなんかに左右されない生活をしたい。  世界中で願われ、戦う力を持っていない市民は、たちが戦うために必要なお金を提供する。  氷見野も同じ思いだったが、今の氷見野には、長年抱え続けている悩みの方が心を占めていた。
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