ゆりかご

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 氷見野はキッチンからお皿を運ぶ。すでに他の料理が並べられているテーブルに、綺麗に盛りつけされたアジのフライとポテトサラダが乗せられる。  食事の準備が終わった頃、氷見野の計算通りにドアの閉まる音が鳴った。氷見野は玄関へ向かう。 「おかえりなさい」  氷見野は玄関で靴を脱ぎ立ち上がる夫、氷見野祥貴(ひみのしょうき)の背に声をかける。 「ただいま」  疲弊感を纏った声でそう言った夫は、氷見野にビジネスバッグを渡す。パーマをかけた茶髪に隠れる額には、灼熱のコンクリートサバンナで(いそ)しんだ証拠である汗がしっかりと滲んでいる。 「お風呂にしますか?」  氷見野は夫の様子を(うかが)いつつ尋ねた。 「いや、先に食事にするよ」  夫は険しい表情をしながらダイニングに向かう。  氷見野は夫の服がある仕事部屋に入る。綺麗に整頓された部屋の中に、オレンジの明かりが灯った。  夫の仕事部屋のテーブルには仕事に関する本や資料だけでなく、家計簿や領収書と書かれた封筒がある。  いつものようにクローゼットにビジネスバッグをしまう。
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