36人が本棚に入れています
本棚に追加
/2022ページ
氷見野はキッチンからお皿を運ぶ。すでに他の料理が並べられているテーブルに、綺麗に盛りつけされたアジのフライとポテトサラダが乗せられる。
食事の準備が終わった頃、氷見野の計算通りにドアの閉まる音が鳴った。氷見野は玄関へ向かう。
「おかえりなさい」
氷見野は玄関で靴を脱ぎ立ち上がる夫、氷見野祥貴の背に声をかける。
「ただいま」
疲弊感を纏った声でそう言った夫は、氷見野にビジネスバッグを渡す。パーマをかけた茶髪に隠れる額には、灼熱のコンクリートサバンナで勤しんだ証拠である汗がしっかりと滲んでいる。
「お風呂にしますか?」
氷見野は夫の様子を窺いつつ尋ねた。
「いや、先に食事にするよ」
夫は険しい表情をしながらダイニングに向かう。
氷見野は夫の服がある仕事部屋に入る。綺麗に整頓された部屋の中に、オレンジの明かりが灯った。
夫の仕事部屋のテーブルには仕事に関する本や資料だけでなく、家計簿や領収書と書かれた封筒がある。
いつものようにクローゼットにビジネスバッグをしまう。
最初のコメントを投稿しよう!