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氷見野は茶碗の上に箸を乗せる。その時、箸の先を横に向けるように意識して置いた。氷見野は少し強張った表情で夫を呼ぶ。
「祥貴さん」
「なんだ?」
「お願いがあるんです」
「何か役に立ちそうな家電か?」
夫は口をもぐもぐとさせながら聞く。
「いえ、そうじゃないんです。この前、白石出版さんから連絡があって、料理本を出してみないかって言われたんです。それで、お受けしたいと思うんです」
「なんで?」
夫の表情が怪訝になる。氷見野は鈍る口を動かす。
「せっかく、私の料理を本にしたいって言ってくださってますし、家計の足しにもなるので」
夫は冷たい目で氷見野の顔を見つめる。
「君の仕事は料理本を出すことじゃないだろ」
「そうですけど……」
夫は淡泊な口調で続ける。
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