ゆりかご

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 氷見野は食器洗いを終え、寝室に入る。寝室は夫と別々になっており、唯一落ち着ける自分だけの部屋。  天使をモチーフにしたフェミニンチックなドレッサーや、枠に花の絵をあしらう全身鏡(スタンドミラー)、棚の上に置かれた健康器具、壁には子犬の写真が()ったカレンダーがかけられている。  机に向かい、席につく。眠っていたパソコンを起こし、メールを開いた。  白石出版からのメールを再度読み返す。最初見た時とは違って、喜びは半減している。画面の中にある嬉しい言葉たちは、氷見野の生活に反映されない。  架空の世界から飛び出しても、危険から身を守ってくれるゆりかごに何度も阻まれてしまう。ゆりかごは氷見野の意思を介さず、少しでも危険が予想できれば否応なく遮断した。  氷見野は返信をクリックし、断りのメールを作成していく。沈む気持ちを乗せていくかのように、氷見野の指は素早く動いていった。  一気に書き上げ、失礼がないか確認した後、送信をクリックする。  ただメールを返信しただけでどっと疲れが込み上げてきた。  氷見野は現実から逃げるようにパソコンを閉じ、着替えとバスタオルを持って部屋を出る。
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