ゆりかご

9/16
前へ
/2072ページ
次へ
 とても嬉しかったが、氷見野の笑顔はゆがんでいく。 「今は返事できないから、また連絡していい?」 「うん、大丈夫だと思うよ」 「行きたいとは思ってるから」  氷見野は吊るされたパンに飛びつくように付け加えた。 「わかった。幹事の葛城君に伝えとく。楽しみにしてるね」 「ありがとう。また」 「うん、じゃあねー」 「はーい」  氷見野は電話を切った。汗ばむ手が携帯を置く。  これを聞いた夫が言うことは決まっている。どうしても行きたい。  氷見野はどこかで夫も理解してくれると信じ、今回ばかりは意地でも許可を得ようと思った。氷見野は妙な緊張を胸に抱き、庭へ体の向きを変えた。
/2072ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加