世紀の瞬間

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 ――――2084年12月。  前人未到の地に降り立った4人の宇宙飛行士は、金星を探索していた。  ところどころ薄黒く隆起する丘と、鮮やかな薄い赤紫の平地との対比が余計に好奇心をそそる。  吹きつける風は気まぐれに強弱をつけて体にぶつかってくる。立っていられないほどじゃない。今こうして未開の地に立てる誇りを胸に、彼らは任務に励んでいた。 「大気パラメータ計測終了。データを送る」  携帯デバイスのモニターを見ながら地球に伝達する。 「あっついな~おい。そろそろ戻った方がよくないか?」  特殊な宇宙服を着る男は、デバイスを手にする男に透明な包装で覆われたカメラを向ける。  デバイスを持った男はカメラに手を振る。カメラの先では遠く離れた地球にいる多くの人々がリアルタイムで視聴していた。 「そうだな。長居して被曝したら厄介だ。シーラ、撤収だ」 「もうですか? せっかくこんな世紀の大発見のチャンスが目の前に転がってるってのに」  小さな箱を持った宇宙飛行士の女性は残念がる。 「また明日もある。今日はこの辺にして改めて予定を決めよう」 「鬼平(きだいら)船長」  デバイスを宇宙服のベルトポシェットにしまう鬼平は、同じく銀色の宇宙服を着た男へ視線を投げる。 「カルア、どうした?」 「西の方角にクレーターがある。少しだけ寄って行かないか?」 「クレーター? ただのクレーターだろ。明日でもいいんじゃないか?」  カルアは含んだ笑みを見せる。 「それが妙なんだ。穴の側壁にでっかい洞窟がある」 「まさか、生命体!?」  シーラは笑顔を弾けさせる。 「かもしれないな」  カルアも乗り気な様子だった。 「どうする? 鬼平」  鬼平は力の抜けた笑みを零す。
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