ゆりかご

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 夕食が終わり、まったりと流れる空気が部屋の中を包んでいた。  エプロン姿で夕食の片づけをしていた氷見野は、リビングのソファでくつろぐ夫をキッチンからチラチラ一瞥(いちべつ)している。  夫は放送されているバラエティ番組を見ながらお酒を飲んでいた。時折、夫の笑い声が聞こえてくる。どうすれば夫から許可を取れるのか、思考に試行を重ね、心の準備をしていた。  銀色の蛇口から出ていた水が自動で止まる。布巾で手についた水を拭き取り、エプロンを外して綺麗に畳む。  壁に貼りつけられたフックにぶら下がる赤い布袋にエプロンを入れ、ゆっくりリビングへ向かう。 「祥貴さん」 「なに?」  夫の顔は16K3DX(スリーディクロス)テレビに向いたままだった。奥行きを感じられる映像は鮮やかな色を再現し、カメラの前で冗談ばかり言ってるやり取りは、その場で繰り広げられているみたいに見える。  テレビ横に行けばわかるが、スタンドライトの形をした機械が映していた。  台の上に固定された細い1本は上に伸び、円盤の中心となる光源が映像を放っている。光源の周りを囲む大きな曲面は反射板が敷き詰められ、直接目に焼きつけていく。  氷見野は夫から少し離れて1人用のソファに座り、斜め前でテレビに夢中の夫を見定めて本題に入る。
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