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「祥貴さんは同窓会に行けて、私はいけないんですか?」
氷見野は静かに問いかける。
「俺は忙しい仕事の合間を縫って行ったんだ。行きたくて行ったんじゃない。幹事が俺に回ってきたから仕方なくだ。もう行く気はないよ」
夫は笑みを見せながら一蹴する。
「それにな、昔の友達関係なんて、なんの役にも立たないんだよ。逆にトラブルの元になることもある。学生の時と、大人になってからじゃ関係性も変わるんだ。昔の幻想のまま会ったら足元をすくわれるんだよ」
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!」
氷見野の怒気に反応したのか、映像にノイズが走る。ジジっとどこからか変な音も聞こえた。夫は不穏な雰囲気を悟り、辺りを見回すも、どこもかしこも温かな家庭の見映えで普段と変わらない。些細な変化を逃すものかと神経をとがらせたが、それ以上何か起こる気配はなかった。
氷見野は夫の表情が曇り、ソワソワする素振りを窺いながら、自身の取り戻した言動を後悔した。氷見野は夫に視線を合わせるのを嫌い、顔を伏せる「申し訳ありません」と罪悪感が流れ出た。
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