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どっと疲れがのしかかる体を寝室に運んだ。気力を失くし、ドレッサーの前に座る。柔らかな背の無い四角い椅子が軋んだ音を立てる。
夫との結婚が決まる前から、関係は見えていた。でも、きっと幸せな未来が待っていると、信じて疑っていなかった。友人や同僚からも羨ましがられた玉の輿。努めていい奥さんになりたいと思っていた。夫の人格もひいて、周りからの評価も高い。誰だって不満くらいあるし、簡単に離婚を決心できるわけじゃない。専業主婦の氷見野がいきなり働ける自信もなかった。
40代になって体力も落ちてきている。社会から隔絶されてきた生活がずっと続けた自分が、1人で生活できるとも思えない。
両親は病気で亡くなっている。母親は1人っ子であったことを悔やみながら、病院のベッドで静かに息を引き取った。両親がいなくなって以来、孤独な結婚生活が続いた。続けてしまった。
氷見野に選択などない。死ぬまで、あの人に尽くすことでしか、生きることはできない。
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