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バックからサイド、ルーフと、車体を覆っていた白いゴムが、車体の前の地面に一番近い、車の下部にあるスカートパネルに入っていく。どういう仕組みで車体を丸ごと覆うゴムが、あんな長細いスカートパネルに入っているのかいつも不思議に思いながら発進の準備を見守る。
あまりに高い気温が各地で観測されだしてから、タイヤがパンクする事例が相次ぎ、自動車メーカーがこぞって対策を打ち出した。その1つが熱拡散ゴムシートだったりする。
氷見野には難しい話で、理屈はよくわからないが、車内にこもってしまう熱を70%ほど車内に持ち込ませないようにできるらしい。
氷見野はその効果を実感しているし、それが当たり前であった。
熱拡散ゴムシートを収納し終えた車体は、支底盤につながった支柱を呑み込みながら降りていく。同じく車体後方の支柱も車体の傾きに合わせてゆっくり降りている。タイヤが地面につくと、支底盤が穴を塞いだ。熱拡散ゴムシートを完全に解除したという高音のサインが鳴った。
氷見野は便利なようで不便な車に乗り込み、エンジンをかける。
「こんにちは。行き先を入力してください」
ハンドルの横にある小さな画面が光った。氷見野は履歴を開き、目的の大型スーパーの名前をタッチする。
「確認できました。全自動運転システムで運転を開始します」
聞きなじみのあるお姉さんの声で、車がお知らせしてくる。氷見野はシートベルトを締め、タッチパネル画面のOKボタンに触れた。
「車道に出ます。安全なドライブを提供するのは、pless、ナビゲート001です」
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