雷機の少女

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 お姉さんの声は操作過程を随時お知らせしてくる。  車はゆっくりと車道に出て、道路を走り出す。ハンドルは氷見野の前で勝手に動き、足元のブレーキやアクセルも、見えない誰かが操作しているかのように動いていく。  氷見野の乗った車は大きな道路に出る。何もしなくても勝手に進み、車間距離もちゃんと保っていた。赤信号になれば止まり、横断歩道を急いで渡る通行人にも反応して止まってくれる。経験則で心配なくよそ見ができる快適さ。  全自動運転システムはすべての車に搭載されている。隣を走る車の運転席にいる男性は、居眠りをしていた。  全自動運転システムによる死傷者数は国内で毎年一桁。年によっては0人という年があり、そういう年だったことが報告されると、自動車販売店で安売りセールが開催されたりするのがメジャーとなってきている。  氷見野が小さい頃も、科学技術は驚くほど新鮮に発展していたが、全自動運転システムとか、45度以上の夏とか、ブリーチャーとか、まったく想像してなかった。新しく世界は変わりつつあるのに、自分の住む世界はずっと平行線のまま。それを突きつけられて、ただ哀れな人生を嘆くことしかできない。  人生を変える魔法みたいなものがあればいいのにと、突飛した空想に入り浸る。氷見野は伏し目がちに窓の外を眺めた。
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