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肉眼で捉えた瞬間、凍りつくような寒気が体の毛穴を引き締める。
ブリーチャーは床を跳ねるように走り出す。奥からどんどんブリーチャーが現れ、ギャー! といびつな鳴き声を発して猛然と向かってきた。
氷見野は恐怖に背中を押されるまま、悲鳴を伴う声たちと共に階段を駆け上がる。店の中に乱れる音という音。物が壊れる音、悲鳴、ブリーチャーの鳴き声。
悲鳴の中には独特の音色を持ったものもあった。それは決して気持ちいいものではない。聞けば不快な感覚が頭の中で転げ回り、鼓膜にこびりついて取れなくなるような悲鳴だ。死んだ人がいると、見なくても悟れる異様な悲鳴が店内に反響していく。
3階まで駆け上がった氷見野。足がもう重くなってきた。屋上に向かっていた人たちの後に続いていこうとする。
その時、目の前を走っていた男の体が一瞬にして消えた。
鈍い衝突音が2回鳴った方向に目をやると、男は左側の奥の通路で倒れている。
氷見野は反射的に止まってしまう。同じように走っていた人も氷見野と同じく立ち止まり、絶句していた。
「はっ、あぁっ!!」
中年の男性は右を見ながら後ずさっていた。同じ方向に目をやった者たちの顔も、恐怖に染まった。
様々な反応をする避難者の中で、氷見野はそちらを向くことをためらう。その事実を認識したくなかった。でも、そこにいると分かる。人のものではない、息づかいが鳴っていたのだ。
息を殺し、強張る顔を向ける。床に体を伏せるように立つ生き物の背中から、蛇のように長い物が飛び出していた。ゆらゆらと動き、自分たちを見下ろす様は品定めをしているかのようだ。
つぶつぶとした鱗のような物が見える体、開いた背中からはぬめり気のある液体が垂れている。
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