平和は唐突に崩壊する

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 7年の経過を要して、宇宙船が地球に帰還してきているとの一報が入り、落下による被害の警戒が世界に大発信された。  落下地点がアラビア沖とわかり、捜索したところ、海の底で宇宙船が発見される。乗組員は確認できず、詳しい分析を行うということで一時下火になった。  その頃だったか、漁船が出たまま戻って来ない事例が世界各国で起こり始める。  海上警備隊などによる捜索が行われ、海上を漂流する漁船を発見。船内に数名の乗組員がいたが、全員の死亡が確認された。  死亡した乗組員が運ばれた大学で、司法解剖が行われた数日後、新聞の小見出し程度にしか扱われないほど印象に欠ける事件が、異例中の異例と言わざるを得ない政府の記者会見室で死因が発表されることになった。  異例の緊急会見がなされた理由は、事の重大性を厳粛に伝える官房長官の話しぶりで、誰もが納得するものであった。  死因は脳欠損による機能不全。  発見された乗組員の頭の中にあるはずの。猟奇的な殺人事件の可能性が高いとの見解により、捜査が始まった。  それから、同一の犯行手段で殺害される事例が世界各国で相次いだ。国際的犯罪組織という話も出てきたが、アメリカ海軍からの情報により、犯人が特定される。アメリカ海軍が撮った写真は、世界を震撼させた。  海面から顔を出すトカゲのような生き物。体長は3メートルから4メートル。船体の横を、太い尻尾を揺らしながら泳いでいたのだ。  テレビに出演する生物学の教授たちや水族館の飼育員は、これまで一度たりとも見たことがないと口を揃える。  いずれも川や海などの水辺や、海上で犯行が行われるケースが多く、世界中で相次いでいること。殺害された死体は耳の穴から脳にかけて貫かれ、脳を取り除いていることから、人間による所業ではないと断定。日本の宇宙飛行士も、この生物に殺されている可能性が高いとの見解が強くなった。  以上のことから、「世界は新たな脅威に直面している」との非常事態宣言が、世界各国を駆け巡ることとなった。
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