親心

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 ネットを開き、自分のブログを書き始めた。静かな部屋の中で、軽快なステップ音のようにキーボードを打つ音が鳴っていく。  攻電即撃部隊(ever)の素性を書き込めば送信できなくなる。この地下のネットワークは随時監視されているのだ。  未だにウォーリアへの批判は少なくない。冷たい言葉の暴力が浴びせられてしまうこともある。そういう時は無視するか、努めて丁寧な言葉でかわす。氷見野は批判に遭いながら地下施設の中の暮らしを書くようになり、それなりの人気ブロガーになっていた。  しばらくして、氷見野の手がキーボードから離れた。両手を上げて伸びをする。  これから履歴書を作成しなければならないが、少しだらけたい気分だった。20分後に開始すると決め、好奇心をそそる物をネットで探していく。氷見野がネットで見る物は大体ファッションやインテリア雑貨。家具は前の家でも氷見野好みの部屋の内装になっている。  地上にいた頃は、夫に頼んで買ってもらうのが当たり前だった。いわば餌のようなもの。それで満足していた部分もあったが、自由な外出ができない不満の代わりにはならなかった。  今も自由な外出ができないことに変わりないが、この地下は1つの街みたいなもの。自由な外出できている気分を味わうには充分だ。
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