親心

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 氷見野は自宅に戻る。エコバッグを持って、スムーズに通路を歩いて行く。右脚はほぼ完治し、生活に不便な部分は皆無となっていた。  荷物を折り畳み式のローテーブルの端に置き、パソコンを開く。起動している間にバッグから目薬を取り出して目に差そうとする。何度かやるが外してしまい、頬に当たってしまう。  ティッシュで濡れた頬を拭い、片目を瞑りながら目薬の先に集中する。目薬の先からじわりと雫が出てくる。雫に焦点を合わせていく。不意に雫が落ちてきて目に入った。爽快な感覚が目に集中してくる。もう片方も差し、ティッシュで余分な雫を拭う。  最近目が乾きやすくなり、目薬を差すようになった。生活環境が変わってパソコンを見る時間が増えたし、年齢も年齢だ。体が脆弱になっている証拠だろうと、半ば落ち込みながら対処していた。  本当はそんなことを自覚したくないが、このまま目をしばしばさせているのは辛い。私はおばさんなんだし、後少しで老眼だって来る、と現実を見つめる。  頬に手を当てさすった。これは大丈夫な肌なのかと心配になる。  この生活になる前からほぼ毎日、化粧水、ヒアルロン酸配合の美容液、乳液を使っていた。化粧品売り場にいた店員さんから詳細な指導を受け、それを忠実に守っている。それでも、今までなかった皺を見ると純粋にへこむ。歳には勝てないということだろうと諦めつつ、足掻き続けているのだ。  氷見野は顔をぶるぶると振るい、パソコンに意識を向ける。
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