第一話 「エクソシスト」

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 道路照明の白い光が規則的なリズムで過ぎ去っていく。  それを窓の外にぼんやりと眺めたまま、中津 佑介(なかつ ゆうすけ)はため息を吐いた。 これだけ集中してため息を吐いたことなんてあっただろうか、と考えてから、さらにまた一つため息。  隣の江坂 ミエ(えさか みえ)の視線を感じていたが、佑介は気付かないフリを通す。  佑介の乗るバスは、奥坂市の大動脈である仏堂筋を南下していた。他には車の一台、人影のひとつもない。信号機などの公共物をのぞいて、街はほとんどのあかりを落としている。  暗闇の中にそびえ立つオフィスビルの群が、まるで巨人の墓場のようだ。そこに怪物を見つけてしまいそうな気がして、佑介は目をバスの車内へと戻した。  ごく一般的な観光バスだ。並ぶ座席は深いブルー。祐介とミエが座るのは通路の左側、最後列から二番目のシートだ。祐介が窓側でミエが通路側。  二人の前方には五人がバラバラに座っている。そして、その五人と隣のミエの全員が、それぞれ特殊な能力を持っているのだ。  問題は佑介だけは、全く普通の人間であることである。手違いでこのバスに搭乗してしまったのだ。佑介はさらにため息を重ねた。 「で、けっきょく佑介さんには何ができるんですか?」  ミエがとうとうそう訊いた。  猫のように目を細めた笑顔を佑介に向けている。  彼女は佑介にもなにかの能力があると勘違いしているのだ。 「もったいぶらずに教えてください。街を丸ごとひとつ封鎖なければいけないような強力な地霊を討つための御一行さまバスなんですから、生半可な能力者じゃ乗れないですもんね」 「いや、だからオレは……」  さすがにそろそろ否定しておかないといけない。佑介は彼女の顔を見る。  茶色がかったショートカット。ほんの少し吊り上がった大きな目。小さな鼻と口。柔らかな頬のラインと尖ったアゴ。今日一日を共に過ごしてきたが、ハッキリと視線を合わせると、佑介はまだドギマギとしてしまう。  思わず目線を逸らして天を仰ぐ。  だけど彼女の喜ぶ返事をしてしまうのも、もういい加減にしておかないといけない。これ以上、地霊退治とやらに巻き込まれては、命すら危うい。
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