第四話 「マジシャン」

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 いかにも外国人が話す日本語という感じのイントネーションだ。  祐介とミエが声の方を向く。アラタだけはそっぽを向いたまま。  いつの間にか祐介の隣に一人の男が立っていた。カフェオレ色の肌の上に直に羽織った黒いジャケットと同色のパンツ。細身だがジャケットの下に覗く腹筋は板チョコのように割れている。  襟の形やタッグの入り方がアシンメトリーであったり所々思い付いたかのようにシルバーラメのパーツが使われていたりと、一体どこで売っているのかと首を傾げたくなるようなデザインの服装だ。  青い瞳を宿す少し垂れ気味な目はくっきりとした二重。まつげは長く濃い。細く高く通った鼻筋はほんの少しだけ鷲鼻。口元には柔らかい微笑。美形だ。  肌の色と顔の造作から一見すると外国人のように見えるが、微妙なバランスが醸す雰囲気は彼の中に半分かそれ以下の割合で日本人の血も流れていることを物語っている。  貴族のような優雅さとジゴロののようなあやしげな雰囲気が同居しているこの男を祐介は知っていた。 「シヴァさん? ですよね?」  思わずそう訊いたが、知人ではない。  テレビ画面を通して、祐介が一方的に知っているだけだ。 「イエス!アイアム、シヴァ!」  両手を拡げ大仰な仕草をとりながら男は応えた。そして握手の手を差し出す。佑介もおずおずとそれを握りかえす。 「ユースケ、ナイストゥミーチュー! ヨクボクのコトヲゴゾンジデシタネ」  シヴァはそう言ったが、世間一般で彼の名を知らないという人の方が少ないのではないだろうか。  マジシャン・シヴァ──謎につつまれたハーフのマジシャン。類まれなるそのルックスとマジックの技術。何よりエンターテイナーとしてのセンスにより人気を博す。  テレビ業界では低迷を続けていたマジックというジャンル。そこにおいて、それまでのおどろおどろしさやコミカルなものではない、ストリートでカジュアルに通行人を驚かせるという演出――ストリートマジックを取り入れ高視聴率を稼ぎ、日本にマジックブームを巻き起こした男。  だがその人気の反面、彼が行うマジックがあまりに不思議すぎるため、サクラの使用や画像編集の疑惑も常に囁かれる。
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