第3話 勇者の旅立ち

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 やがて、見送りを終えた村人たちは散会していく。涙を拭いたサオリンもそそくさと帰り始めた。まだ一日は始まったばかり、ちょうど今頃、自宅の焼き釜ではパンが焼き上がっているだろう。仕上げに自慢のイチゴジャムを塗れば、サオリンお手製のジャムパンは完成する。甘さと香ばしさが、村人たちにも好評だった。  パンの焼き上がりが気になって近道をしてみる。長いスカートの裾を気にしながら石畳の細い路地を歩いていれば、ふと気に掛かる事が頭の中を過ぎった。 「今回の勇者ユウトで・・・・・・」  サオリン本人は気づいていないが、『様』を付け忘れている。  静かに自身に問いかけた。 (何代目だったかしら?)  昔を思い返してみる。一人、二人と数えている内に、先刻旅立ったばかりの勇者ユウトの顔など忘れてしまいそうだ。  果たして、村人たちは知っているのだろうか?   マロン村の秘密・・・・・・否、この世界に隠された真実を。  勇者ユウトとオーク軍団との決戦。サオリンは幾たびも目撃してきた。とはいえ、オークが再来襲し、それに気づいた勇者が村に戻ってきてくれる。再び村の危機を救ってくれる様な、いたちごっこの展開ではない。  巻き戻し。  つまり、物語は最初からやり直されるのだ。  飽きることなく繰り広げられる、寸分違わない王道ファンタジーエピソード。オーク軍団に侵略される村の危機を救う、一人の勇者の物語。     
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