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ただ、不思議な事に《勇者ユウト》の名の元に現れる少年はいずれも顔形が異なる別人だった。そして、その都度サオリンは、勇者ユウトに恋いこがれるヒロインの役を演じ続けてきたのだ。
「ワタシはサオリン。サオリン・・・・・・か」
淡々とした声で自分の名を呼んでみる。何か不思議な感覚がして、おかしさの余り笑みさえこぼれてきそうだ。
たった独り寂しい路地で、伏し目がちに石畳の模様を見つめている内に、少女の顔は一変する。常に笑顔を振りまいている少女のそれから、二十歳を過ぎた、空虚な女性の素顔へと。
(だって、アタシは)
『佐緒里』。
それが現世に生きる本当の自分の名前。
『サオリン』とは、偽りの名に過ぎない。
もっとも偽りであるのは自分だけに限らない。この村も、村人たちも、オーク軍団も、果ては勇者ユウトさえも・・・・・・。この世界が全て偽りなのだ。
何者かが造り上げた此の虚構なる世界を、人は『異世界』などと呼んでいる。
しかし、サオリンは生まれながらの異世界フォーチュンの住人ではなかった。昼間は『佐緒里』として現世で生活し、夜の就寝中だけ、『サオリン』としてこの異世界に現れる。極めて特異なことに、現世と異世界に行き来する二重生活を送っているのだ。
(どうして、こんな村になんか・・・・・・)
事の起こりを思い出してみる。
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