第3話 勇者の旅立ち

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 ネットの噂でたどり着いた謎めいたアプリ《ドリーム・フォーチュン》。フリーゲームと同じく、ユーザー登録は滞りなく済んだ。以来、佐緒里はサオリンとして夢見る毎に異世界の住人、しかも勇者のヒロインとなったのだ。  薄暗い路地を抜ければ、朝日のまぶしさに思わず目が眩む。手で顔をかざしたサオリンの眼下には美しい渓谷が広がっている。まるで映画や絵画で目にした中世欧州のそれだ。  しかし、此処は異世界。《フォーチュン》に留まるためには、決められた役割を果たさなければならない。いつまでも、佐緒里として物思いに耽っている訳にはいかなかった。勇者が旅だった後も、もう少しだけエピソードは残っている サオリンというヒロインの役に戻らなければ……。そう心の中で言い聞かせ、一度深呼吸してみた。 「さあ、早く帰らなくちゃ!」  ニコリと微笑むまぶしい笑顔は、まさしくヒロインのそれだった。  ※  勇者の旅立ちから一時間後・・・・・・。 「いらっしゃいませ……」 「ねえ、ちょっとサオリン! 一体、どういうことなのさ!」  小さなパン屋に怒声が響く。今日一番、サオリンの店に訪れたのは、まともな客では無かった。 「チドリさん?」     
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