第4章 異変

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 その正体は、村の郊外でバタリと行き倒れていた一人の青年。果たして、事故にでも遭ったのか、記憶が混乱している彼が、ふと祠にある伝説の剣を手に取った時、物語は大きく進む。とりわけ何の努力も無いままに、選ばれし伝説の勇者となるのだ。  それは、今まで何回も繰り返されてきた勇者にまつわる物語。そして、そのたびにパン屋の娘、サオリンはヒロインとしての役割を演じてきた。  しかしである。  何時になっても、勇者ユウトになるべき運命を背負った青年は、村に現れることは無かった。オーク軍団は邪魔者がいない為、好き放題に暴れ続けている。村の周りの森林を焼き払い、家畜を喰らう。いよいよ残るは村内のみ。村を繋がる石橋を渡るべく、積み上げられた土嚢の山を崩し始めた。  村が侵略されるのも、もはや時間の問題だった。  村中は絶望的な雰囲気に包まれる。それまで楽観していたサオリンも、冷静なままでいられなかった。パン屋の店先に出たサオリン心配そうな顔で村の様子を眺めている。 (そんな、ユウト様が来ないなんて・・・・・・)  いつもの物語とは異なる展開に、焦りが生じてくる。 (どうしてなの? どうして、ユウト様は来てくれないの・・・・・・)   勇者不在の原因は何か?   静かに目を瞑った。今まで繰り返されてきたワンパターンのエピソードを丁寧に思い返す。何処かに違和感は無かっただろうか?   サオリンが知りうる此の世界の理について整理を始めた。     
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