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思い出す。前回のミッションに失敗した際も、例の光景が脳裏に蘇ってきたのだ。それが無ければ急ブレーキも踏まずに、いつも通り容易く《転生アタック》を成功させられたはずだったのに・・・・・・。
何か気づいた様子でサオリンは、
「きっとアレは・・・・・・」
しかし、それ以上先は声にならない。答えを出す事を躊躇った。代わりに全てを否定するかの様に大きな声で、
「違う! 違うから、絶対にそうじゃないのよ!」
まとわりついた幻影を振り払うかの如く、右手で乱暴に空を斬る。何度も何度も。ヒロインにはそぐわない、粗野な振る舞いを見せた。
本来の役割とは異なるアクションをした影響だろうか。すっかり体力を使い果たし、サオリンはその場に崩れ落ちた。激しかった呼吸が収まってくるや、恐る恐る辺りを見渡す。幸いにも、村人には目撃されてはいなかった。立ち上がると、慌ててパン屋の中へと逃げ込む。バタンと扉を閉めて背中を預けた。自暴自棄に心の中で呟くのは、
(別に、《転生アタック》に失敗したって)
構わない。
(勇者ユウトが此の世界に出現しなくたって・・・・・・)
別に構わない。ワタシには全然関係ない。
しかし、それは禁忌の言葉だった。
サオリンは決して脇役ではない。勇者ユウトに恋いこがれるヒロイン。異世界の物語に欠かせない重要な存在だ。
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