第1章りんごジュース

2/9
前へ
/23ページ
次へ
「何がって……新婚で可愛らしい奥さんがあんたの帰りを待っているのによお、こんな作家さんの家で……」  杏の言葉に軽く鼻で笑う。 「俺だって今の状況すげえと思ってるよ。今話題の人気美人作家の横澤杏先生が俺の愛人とは」 「あほか、知り合った時は彼女だったんだけど?」  杏は林は恋人同士だった。  その当時の光景が脳裏に浮かぶ。 「なあ、杏。俺結婚するわ」 「……は?」  林の言葉に呆然とする。 「誰と? 私?」 「ちげえよ、3つ年下の子なんだけど」  林はベットから起き上がるとシャツを羽織る。 「……何? 私に別れろと」 「うん? 違う違う、報告しただけ。これからも杏とはこういう関係にしたいし」 「……最低だな」 「はは、これからもよろしくな。愛人として」 「……どうした?」  林の声に我に帰る。 「何でもない」 「本当に?」  冷静になっていた表情が少し崩れると林は杏を押し倒す。 「杏、誰の事考えてたの?」 「別に誰でもいいだろ……あんたの事だよ」  思ってもいなかった杏の返答に掴んでいた手が強くなる。 「そっかー。俺の事で頭いっぱいなんだ」 「……」 「杏、呼んでよ」  耳元で囁く林に思わず呼吸が荒くなる。 「……真檎さん」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加