第1章りんごジュース

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第1章りんごジュース

「……はい、分かりました」  部屋の中では秒針の音とキーボードを叩く音だけが聞こえる。  杏はスマホを置くと気怠げに立ち上がる。  作家になり5年。杏の小説はアニメ化しそこそこ充実した生活を送っている。 「はあ、なんかなあ……」  時刻は午後7時。夕御飯を食べるには丁度いい時間帯だが、今日は台所に立つ気力もない。  このままソファーで眠ってしまおうと重い目を閉じるとインターホンが鳴る。 「……あの人か」  ドアを開けるとスーツ姿の男性が立っている。  杏より6つ程年上で、鍛えているのか胸板が厚い。 「いらっしゃーい。どうぞ」 「はいはい、てか疲れてそうな顔してるけど」  男は両手で杏の頬で触れる。 「小説がアニメ化して色々打ち合わせあるんだよ」 「ふーん、大変だね」  男は堂々と部屋に入る。 「ご飯いる?」 「いや、外で食べてきた」  男の言葉に杏は目を細める。 「あ、もしかして誰と食べたんだよって思ってる?」 「……思ってねーよ」  男の意地悪な笑みに目を逸らし隣に座ると、リモコンを手に取る。  2人は特に話す事はなくただテレビを眺めている。 「ねえ、林さん。あんた本当にいいの?」 「ん? 何が?」     
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