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『憎悪の炎』
私は復讐者だ。
奴隷は躙にじられ、凡平は笑い、貴族は富む。
この世界では富める者が食い、持たぬ者は死ぬのだ。
我らを鎖につないで殴り、穢し、売り飛ばす商人。買い取り先の貴族や小金持ちも同様に我らを凌辱する。
そして薄笑いの皮をかぶった偽善者どもは、ひとしずくの焦燥もなく安寧のうちに暮らしている。
他人ひとの苦渋など露知らず。知ろうともせず。また知っていながらに虐げる。
私は貴様らを許さない。知なる無知を許さない。
神すら許したその汚濁も、この手で必ず浄化して見せよう。
くだらない地上に、悲嘆の声を。
くだらない王国に、破壊の惨劇を。
価値無き世界に、死の雨を。
己の血液と無力にまみれながら、全ての命よ、消えてしまえ。
仮初の楽園。無様な豚共。
その盲目に篤とくと焼き付けるがいい。
翠眼すいがんの魔女、アウレリアの復讐を。
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『第1話 雪降りの夜を少女が歩く』
その日は、近年まれに見る大雪だった。
城からもその版図を一望できないほどの大きな国には、土着の宗教の祝い日を楽しむ静かな寒風が流れていた。
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