第1章

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誰もいなくなってしまったあの日。どうして、あの時、わたしだけが生き残ってしまったのだろうか。だんだんと暗くなっていく森の中。車から投げ出されていい具合に生い茂った森の枝葉がクッションになってわたしは大きな怪我はなく生きていた。 車に残っていた両親と兄は既に死んでいた。話しかけても無音の3人が、当時10歳にも満たなかったわたしには既に死んでるとは信じ難く、ただ泣いて泣いて誰かの助けを待っていた。だけど、数時間泣いたところで誰も助けにはきてくれず、赤らんでいく日差しが夕暮れを知らせる。だんだんと暗くなっていくことに、恐怖が湧いてきた。 車がガードレールを突っ切って落ちた先は深い崖下。周囲は山々に囲まれており、民家もなければ街灯もない。野生動物がいたっておかしくはない場所だった。 怖くて悲しくて寂しくて、どうしていいかわからず、ぐしゃぐしゃになった車にいる体が折れ曲がった両親や兄のところへ行くのも恐ろしくて、ただ車のそばで体を丸めて泣いていた。 涙が枯れ果てた頃、視界は暗くなった。鬱蒼とした森の中では月明かりは朧げでわずかに周囲を照らすのみ。完全の闇ではない薄闇が余計に周囲のものものを恐ろしく映し出す。がさりと木陰がゆれれば恐怖に肩が跳ねて、そこを注視するが人の目にはそれがなんなのか見えない。 喉が渇いてきた。泣きすぎたせいかもしれない。だけど近くには飲み物を打ってくれる自動販売機なんてない。 膝を抱えて周囲を何も見ないようにして、わたしは朝が来るのを待った。眠気は一向にわたしをさらってはくれず、寒さと喉の渇きに耐えた。そして、朝がやってきた。白く輝く太陽の光はわたしの不幸なんてなかったように神々しく、山々を白く染めていく。
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