第1章

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視界が明るくなれば周囲の状況はよく見渡せた。 頭上を見上げれば道路のガードレールの白が小さく見える。だけどそれは決して届く距離ではない。だったら、次はどうすればいいのか。 ふと、スマホの存在を思い出し、ハッとする。背後の車を振り返る。ひっくり返ったプリウスの鉄鋼の腹が見える。窓はどこも割れているが、10歳の子供が入れる隙間はない。それでもなんとか手を出せば車内に手が届きそうだった。車の中には体が変なふうに折れ曲がって重なり合うような両親と兄の遺体があった。血が出ていて、誰の血かもわからないが、それが車の中を悲惨に赤く染めていた。 父さんのスマホでも母さんのスマホでも誰でもいい。車の中には兄のも含めて3台はスマホがあるはずだ。手を伸ばして探っていると母のバッグが見つかった。それを引っ張り出そうとするが両親の体の下敷きになっていt引っぱり出せない。だったら、とバッグの中に手を入れてスマホを探る。あった。 取り出して画面を点灯させる。充電は半分ほどだったけど、電話するには十分だ。 110番、と呟いて画面を操作していく。そして電話をかけた。 『ーーーこちらは圏外です。現在、電波の状況が悪く、電話をお繋ぎすることができません。電波の良い場所へ移動するかーーーーー』 頭の中が真っ白になった。 電話を切って、画面を見いると電波のマークの代わりに圏外、という文字が表示されていた。 「そんな…」 終わった。と思った。もう助からないと。
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