256人が本棚に入れています
本棚に追加
**
私と絵里さんは、ターゲットのすぐ近く、会話が聞き取れる程度の距離まで接近することができた。
いまだ絵里さんの目的は分からなかったが、私は黙ってベンチのふたりを見守った。
「寒くない?」
「うん」
奈緒は噴水を眺めながら微笑んだ。誰もいない公園はひっそりと息を沈めていて、噴水だけがざあざあと音を立てていた。彼もしばらく噴水の音に耳を傾けていたが、それから間もなくしてふたたび口を開いた。
「ねぇ」
彼は声のトーンを少し落とした。彼女は先ほどまでの甘い空気とは違うそれを察知して、彼の瞳の奥を覗いた。彼はまっすぐな彼女の瞳に一瞬言葉を失ったが、その声のトーンを変えることなく続けた。
「"ナオ"って本名なの?」
彼女はちょっとだけ首を傾げた。
最初のコメントを投稿しよう!