Lesson.3 結婚《そこ》に愛はない

35/36
前へ
/156ページ
次へ
「なんで?」 息が混じった彼女の声は、普段よりかなり色っぽく感じた。耳についた大振りのイヤリングが冬の風に棚引く。 「似てるんだ、昔好きだった人に」 彼は昔を懐かしむような目をした。彼女は笑った。 「本名じゃないよ」 「うそ」 彼は手を伸ばして、やさしく彼女の頬に触れた。 「だから、本名じゃな」 彼女は言葉をのんだ。彼に抱きしめられたからだ。時間は、スピードを緩めていった。 私は隣の絵里さんを見た。彼女は何をすることもなく、黙ってふたりを見ている。たまらず声をかけようとしたが、それは絵里さんの言葉によって遮られた。 「龍平さんの元カノ」 私は驚きのあまり固まった。 元カノ……? ……ってことは、奈緒の言ってた浮気クズ男って…… ふたたびベンチを見ると、彼の方が少し力を緩めて、ふたりは向き合う形になっていた。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

256人が本棚に入れています
本棚に追加