256人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんで?」
息が混じった彼女の声は、普段よりかなり色っぽく感じた。耳についた大振りのイヤリングが冬の風に棚引く。
「似てるんだ、昔好きだった人に」
彼は昔を懐かしむような目をした。彼女は笑った。
「本名じゃないよ」
「うそ」
彼は手を伸ばして、やさしく彼女の頬に触れた。
「だから、本名じゃな」
彼女は言葉をのんだ。彼に抱きしめられたからだ。時間は、スピードを緩めていった。
私は隣の絵里さんを見た。彼女は何をすることもなく、黙ってふたりを見ている。たまらず声をかけようとしたが、それは絵里さんの言葉によって遮られた。
「龍平さんの元カノ」
私は驚きのあまり固まった。
元カノ……?
……ってことは、奈緒の言ってた浮気クズ男って……
ふたたびベンチを見ると、彼の方が少し力を緩めて、ふたりは向き合う形になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!