風邪の話

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あれから、一週間ほど経った。 客観的にみていると、どうにも小さな事でしか後悔していない、ということに気が付いた。 えー、色男さん? いるんでしょ? 「ははは。色男なんて言われたの初めてなんだけど。なんだい?」 小さいのじゃなくて、大きいのやり直しさせてよ。 「んーそれで、君は満足するのかい?」 うん。小さいことの積み重ねもそうだけど、大きなものを正すことが、私のやり直しにつながると思うんだ。 「じゃあ、試してみるかい?」 私は、迷わず頷く。 「しかし、忘れないことだ。決して、大きな間違いを正すことが、いい結果につながるわけではない」 そういうと、指を鳴らす。 周りの景色がぐにゃりとゆがみ、ありもしない胃酸がのどまで出かかる感覚に陥る。 それも数秒のことで、そこは夕方の学校だった。 私の大きな間違い。大きな後悔。 年甲斐もなく泣き喚いた、中学三年生の秋。 校門を出る湊の姿が視界に入る。 足取りはよく見えるが、この時の私は風邪をひいていた。 そして、翌日。無理に学校に行き、風邪を悪化させた。 そのせいで、家族にはとても悪いことをしてしまったのだ。 それをなくすために、私は湊についていく。 家について、心配そうに見るお母さんと蓮にわざとらしく笑って過ごし、そして部屋に戻る。 「はぁ……しんどいよぉ……」 それもそのはずだ。 布団の上に倒れながら、一人弱音を吐く湊の姿を見て、私はその時の感情を思い出していく。 そう、私が頑張ってから元気を見せているのには訳があった。 この時、治りかけだけれど、お母さんと蓮も体調を崩していた。 それでも、体調が万全になるまで、私が頑張らなくてはと、気を張っていた。 だから、あまり時間がかからないように着替えて、下に降りると、キッチンに立つ。 あまりレパートリーが多いわけじゃないし、携帯でレシピ調べながらの調理になる。 肌寒さを感じながら、携帯を片手にキッチンに立つと、食べやすそうなそうめんを作ることに決める。 「お母さん、蓮、もうちょっと待っててねー」 湊は、明るめに言うと、食材を取り出し、温かいそうめんを作り始める。
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