4人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
一つ、大きなやり直しを経て、私は、湊を助けることができると意気込んでいた。
今まで以上に、気にしていなかったことにさえ声をかけるようになり、彼女は私が辿りたかった世界をたどっているはずだ。
『湊ー起きなー』
私は、いつものように湊に声をかける。
しかし、今日は起きる気配がなかった。
まあ、湊だしそんなこともあるよね。
私は、湊を起こすのに、その後一分近くの時間を使った。
そして、朝食を食べるのを見届けた後、学校へ向かう。
そして、いつものように小さなことでも気を付けて思い出し、警告を下す。
こうすることで、最近では「どんくさくなくなったね」とか「最近表情明るいね」と周りからいわれるようになっていた。
私は死んでいる身ではあるけれど、湊がそういわれているのを見て、私はまるで自分自身が言われているようでうれしかった。
「頬がみっともなく緩んでいるよ」
うるさいな。
「……君は、今の彼女を見てどう思うかい?」
湊を見て? うん。なんだろうね。彼女は、着実にいい方向へ進んでると思う。私の一生みたいに暗くはない。
彼女の一生は、私と違って死んでも肯定できるものになるんじゃないかな。
「君は肯定しているのかい?」
私は、それでよしとしているよ。
貴方も言った通りこれは『ある種のやり直し』。私自身の、本当のやり直しじゃない。
「そうか。わかっているみたいだね」
うん。わかってる。
これが、私が死ぬ直前に願った人生。
これは、私が味わうことはできない人生。
これは……釘宮湊の夢物語。
「どうしたんだい? 涙を流したりして」
肉体がないのに涙って出るんだぁ、へぇ。
「さぁ。わかっているなら、エピローグまで頑張ってみたまえ。まだまだあるだろう?」
もっちろん。
私は、彼に返事をして、湊の背中を見守り続けた。
私は、私が死ぬあの事故まで、彼女を助け続ける。
最初のコメントを投稿しよう!