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もし、やり直しができるのであれば、何をやり直したいだろうか。
今朝コンビニでお菓子を買ってしまった、などというどうでもいい、実に小さいことから、この人と結婚をしなければ、などという少し重く、デリケートなものもあると思う。
一番重たいとすれば、そう。
人生をやり直したい。
そう思う人だっている。
誰しもは一回は思うのだと思うけれど、実は私、釘宮湊(くぎみやそう)もそう思っている。
暗く冷たい空間の中で、私は思っていた。
もしあの時、節約していればお金に余裕があった。
やり直したい。
もしあの時、学校を休んでいれば風邪は悪化しなかった。
やり直したい。
もしあの時、家の戸締りをきっちりやっていれば空き巣に入られなかった。
やり直したい。
そして、もしあの時、家出をしなければ……私は車に轢かれることもなかった。
やり直したい。やり直したいやり直したい。
できるならば、人生そのものをやり直したい。
「本当に、そう思っているのかい?」
私が強く思うと、どこからか声が聞こえてきた。
どこか優しいイメージの男性の声。
「本当にやり直したいと、思っているのかい?」
――ーはい。私は、迷惑ばかりかけて来ました。そんな人生で、終わりたくないです。
「人生をやり直す、ということは、今まで生きてきた君自身を、すべて否定することになる。それでもいいのかい?」
―――はい。そもそも、迷惑しかかけなかった人間は、肯定されるものではないと思います。
「なら、君の願いをかなえてあげよう」
その言葉に、私は胸が高鳴ったような、そんな気がした。
「ああ、僕ならそれができる。だけど、少し条件もあるけど、いいかな?」
―――もう死んだ私に、何を求めるというのでしょう?
「いやさ、何かをもらおうってわけじゃないよ」
そのとき、私は思った。
もしかしたら、この人は悪魔なのかもしれない。私の願いをかなえると同時に、魂をどこかへもっていくのかもしれない、と。
しかし、私の考えはバレバレなのか、その声はクスクスと笑いながら、近づいてくる。
「フフフ。別に悪魔のようにどうこうするなんてものじゃないよ。条件っていうのは――」
そこで、私の死後最後の意識のようなものは途絶えた。
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