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私は、湊の事ばかり考えて、最近は周りに目を余り向けていなかった気がする。
え? 待って。つまり、そういうこと?
「お。答えに行きついたみたいだね。ホームズ」
私が矯正をし続けた結果、徐々に私が辿った一生と誤差が生じている?
「その通り。例えば、君は最初に、教室で転ばないように注意をしたね」
うん。あれは、転んだ時に友達を巻き込んで怪我を――
「そう。ケガを防いだね。でも、君の一生はそこで怪我をしている。これの積み重ねで、君の一生は『どんくさい』になり、彼女の一生は『どんくさくない』になったんだ」
……それは、いいことなの?
「君自身が言ったじゃないか。彼女の一生は、肯定できるものになるって。そうとも、彼女の一生は肯定的になる。他ならない、君自身がそうするんだからね」
……つまり。これから、私でもわからないことが出てくるってこと?
「そうだね。ああ、それと。もう一つ教えておこう」
そういって、男は人差し指を上げて、微笑む。
「君のおかげで、彼女の未来というものは明るくなった」
うん。それは、喜ばしいことだけど。それが?
「つまり、彼女の未来は変わった。でも勘違いをしちゃいけない。『未来は変わっても、運命は変わらない』ということを頭に入れておくんだ」
それってどういう―――
私が言い切るよりも先に、彼は煙のように消えてしまった。
未来は変わっても、運命は変わらない。
なぜだか胸に引っかかる言葉。
だけど、今はお母さんの足を心配してあげなきゃ。
翌日は仕事を休み、病院に行くというお母さんの言葉を聞いて、ようやく安心した私たちは、ご飯を食べ、お風呂に入り、お母さんを寝室に寝かせてから床についた。
そして、この日。あの言葉を境に、彼が現れることがなくなった……。
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