命日

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『湊、起きて―』 私は、湊に声をかけて起こす。 「んー……おきる……」 ボソッとつぶやいた湊は、上体を起こして眠気眼をこすった。 お母さんのあの日の怪我は、たいしたことはなく、数日安静にするだけで治った。 それはいいことなのだが、私の知らないことが多くなってきた。 そして、私の中の焦りも大きくなっていった。 何が救うか。 少し考えてみればわかったことなのだ。 あの日、あの男に言われた通り。 少しでも何かを変えれば、未来も何かが変わっていく。 それすら気づかなかった私は、やはり――― 「さってと。朝はどうしよっかなー」 朝食の事を考えている湊の後ろ姿が、扉の向こうへ消えていく。 対して私は、その場で立ち尽くすだけだった。 やはり、私という存在はどんくさく、後悔まみれなのだと再認識してしまい、私は動くことができなかった。 少し前までは、彼女の一生を助けられると意気込んでいた。 それが、たった一つ。予想外なことが起きた瞬間に、こうもどうしようもなくなってしまう。 窓から見える空を見上げると、綺麗な蒼い晴天。 うん。いつまでもくよくよはしてられない。 私ができる範囲で、湊のフォローをして、私の見える範囲でサポートする。 それしか、今できることはない。 「れーん! おかーさーん! ごはーん!」 少し大きめな湊の声が聞こえる。 その声につられて、二人が部屋から出てくる。 湊は、お皿にスクランブルエッグとサラダを盛り付ける。 そして、軽く白米をよそってテーブルに並べる。 そこで私は、蓮に目ヤニがついていることに気づき、湊に促す。 『湊、蓮見てあげて』 「ん? あ、蓮ー。目ヤニひどいよー? 顔洗ってきなー」 「んぅ~はぁい……」 眠そうにしながら、蓮は洗面所へ向かっていった。 それを見ていたお母さんは、にこにこして頬杖をついていた。 その視線が少し照れ臭かったのか、湊は少しそっぽを向いてこぼすようにきく。 「……なに?」
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