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ぱちりと目が開く。
手を動かしたり、立ち上がって足を上げたりと、自分の感覚を確かめる。
うん。なんら変わりはない。
しかしどうだろう。私自身、死んだ感覚はある。
時計を見ると、朝七時三十四分。
あと一分ほどで、妹の蓮(れん)が私を起こしに来る時間。
いつもいつも起こしてもらって、申し訳ないと思っていた。だから、これもやり直しをできるのだ。
ふふん。これからはできるお姉ちゃんとして、あの子をびっくりさせるんだから。
時間だけではなく、いつ頃なのかを知るために、かけてある制服に目を移す。
なるほど、半袖のセーラー服。そして、左胸あたりが少し青くなっているのを見るに、中学二年だ。
あれは、中学の頃に美術の時間でついてしまった絵具。
夏服になりたての時につけちゃって、お母さんに怒られたっけ。
私が、妹を迎える準備を整えて、待っていると、案の定、蓮は私の部屋に入ってきた。
「おねーちゃーん! 朝だよー!」
乱暴に扉を開けて入ってくる蓮に、私は少し違和感を覚えた。
そして、その違和感はすぐに分かった。
蓮は、『私を見ていない』。
妹の視線をたどると、そこはおのずと私の足元へ行く。
そして、私も自分の足元に視線を向ける。
そこには―――
「お姉ちゃん! おーきーろー!」
「んぅ~……あと三分でいいからぁ……」
妹に揺さぶられ、起きようとしない『私が寝ていた』。
間違うことなんてない。鏡で何度も見た顔。
まぎれもなく、あれは私。
じゃあ、今こうして見下ろしている私は一体……
「相当驚いているね」
後ろからの声に振り替える。
私の頭よりも少し上。そこに、空中で胡坐をかくようにして男性が浮いていた。
見た目は、声から連想できるような、優し気なまなざしと雰囲気の男。
「ああ、声を出しても大丈夫だよ。彼女たちには一切聞こえないし、見えないからね」
彼は、そういうと、胡坐をかいた体制のまま私を起こそうとしている妹の目の前に行く。
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