イチガツ×ツイタチ

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「おばあちゃん、幸せそうな顔してるわね……今にも起き上がりそう……」  死化粧、とやらを施された婆ちゃんは、こう言ってはなんだけど生きてる時より美人で、若く見えた。 「婆ちゃん、ご飯行ってくるね」  だからか、未だに実感が湧かない。  母さんの言う通り、今すぐにでも目を開けそうな気がして……俺はまだ1度も涙を流していなかった。  婆ちゃんの家は千葉県にあって、俺の住んでいる神奈川県からそう遠くはないから、小学3年生の頃からたまに1人で遊びに行っていた。  婆ちゃんは俺を見るといつでも両手を広げて迎えてくれた。  爺ちゃんはいない。  俺が生まれた年に交通事故で亡くなったと聞いている。  一人暮らしで寂しいだろうと、父さんと母さんが神奈川の家で住もうと何度誘っても、婆ちゃんは首を縦に振らなかった。 「この家はあの人が一生懸命建てた家だから。死ぬまでここにいるよ」  婆ちゃんと言ってもまだまだ仕事も出来るくらいに若いし、再婚でもしたらいいのに――と、思ったこともある。  でも、婆ちゃんはきっと爺ちゃん以外の人と一緒になる気はなかったのだろう。  結局、一人で……しかも元旦に突然の脳溢血(のういっけつ)で逝くなんて……。     
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