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うへぇ、と鼻にシワを寄せてみせる《司書》。どこまでも人工的な模倣皮膚の振る舞いに、よく造り込まれているなぁと感心する。荒れ地から那由他の針のように叩きつけられる砂嵐のまっただなかでも平然と運転していられるのは、その頑丈な皮膚と、手の施しようがない能天気さによるものだ。
急激な視界の振動。空は再び頭上へ。《司書》が荷台に転がった首を縦に戻したのだ。ボールでも拾い上げるような無造作さで、髪の毛を引っ掴んで。ヒリヒリと痛む毛根たちをさすることもできず、ギロリと睨んでもどこ吹く風で、変わらず口笛を吹いている。
「……さっきから吹いてるそれ、なに」
「あっ、うーんとねぇ……二つ前の町のレンタルビデオ店で観た、おっきなトカゲが出てきて人間を食べる映画、だったよね」
それじゃあ蜥蜴じゃなくて恐竜、それも獣脚類だ。こいつ、当時最先端の系統発生知能エンジンを積んでるわりには、ポンコツが目立つような。
「……ジョン・ウィリアムズのつもりなら、せめてもう少し唇をすぼめて、指でも鳴らせるようになってからにしてよ」
昼下がりの照りつける陽光は、首の顔面をチリチリと焼いていく。これじゃあ黒化粧だ。あまり気の利いた冗談ではない。せめて定位置である助手席へ戻りたい。けれど《司書》の演奏にケチを付けた後で彼女が素直に従ってくれるかというと……《司書》にはなんらかの至上命令でもあるのか、あまり首から離れようとしない。おかげでなにかと助かってはいるけれど。
「ねえ、せめて助手席に……」
「ダメ。せっかく口笛練習しているんだから。付き合ってくれてもいいでしょ」
あきらかにふくれっ面。黙ってれば儚げな美人で通るのに。《司書》は首を「開発者」と呼ぶが、もしそれが事実なら、この顔を作り上げたのも自分ということになり、つまりちょっと気恥ずかしい。身体のあった頃の自分が面食いだと認めるのには心の準備が欲しいところ。
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