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変化の少ない生活を続けていた社会人三年目、仕事場と自宅を往復するだけの毎日に孤独を感じた景生は、とあるコミュニティと繋がりを持つことにした。
そのコミュニティの構成メンバーは景生と同じ眼を持つ人間達だった。学生時代からそういった共同体の存在を知ってはいたが、当時はそれに参加することなく、その動向を部外者として閲覧するだけだった。慎重に、他人行儀な挨拶から始めた接触は、徐々に気楽なものに変わり、文字だけでのやり取りにとどまらず、数ヶ月経つ頃にはオフ会にも参加するようになった。
メンバーの中には店の経営者もいたので会場は照明を一つも点けない貸し切りの飲み屋やカラオケボックスだった。一見異様な会合は見た目に反して和やかに盛り上がっていた。暗い会場で景生は今までどれだけ「普通の人たち」に自分が合わせてきたのかを痛感した。明るい中では、相手の表情がよく見えず、声色だけで相手の機嫌を恐る恐る判断することもあったが相手の表情皺の一本一本が視認できる暗闇ではそんな必要は微塵もなかった。
ネット上でもオフ会でも主な話題は、自らの眼の症状から起こされる不便や偏見に対しての愚痴。今まで親友にさえ理解して貰えなかった景生の様々な葛藤は簡単に初対面の人間と共有された。
頻繁に会合に参加するうち、景生はある女性と特に親しくするようになった。その女性とは年齢も住んでいる場所も近いことがわかると、子供時代に流行っていたテレビ番組や漫画やアニメ、地元の店の評判についてよく話す様になった。個人的なメールのやり取りをするようになってしばらくしてから、突発的な出来事が彼女との間に起こり、以後、交際することになった。
しかし、酒の席では盛り上がった会話も、しらふな状態のデート中では途切れることが多く、体質以外にこれといった共通の趣味や価値観のなかった二人はお互いに関係を煩わしく感じるようになり、結局、別れた。
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